「介護予防」に対する新しい取り組み
・いつまでもイキイキと自分らしく生きるために必要な「介護予防」 ・生活習慣病だけでは「介護予防」とは言えない ・高齢期からの危険な老化(老年症候群)を予防する ・運動機能を向上させて「寝たきり」や「閉じこもり」を防ぐ ・「新予防給付」,「地域支援事業」と「運動器の機能向上」
高齢者に必要な運動トレーニング
・高齢者でも筋力増強は可能
わが国の平均寿命は、平均80歳(男性77歳・女性84歳)を超え、全人口の約20%、5人に1人が高齢者です。 同じく、介護保険を利用する人も年々増えていますが、その中でもっとも増加しているのが「要支援1」「要支援2」と呼ばれる軽度の支援を必要とする高齢者です。 軽度の支援を必要とする高齢者に対しては、生活の世話をするという支援だけでなく、全般的な身体機能を高めて要介護状態に陥ることなく、いつまでもイキイキと自分らしく生きるための「自立支援」すなわち「介護予防」が必要なのです。
「寝たきり」の状態となる課程には、疾病などによる一時的な運動機能の低下がきっかけとなって活動範囲が狭まると同時に、活動量や活動意欲が低下し、その結果、さらに運動機能が低下するという悪循環が考えられます。この悪循環が、最終的には深刻な運動機能障害へとつながり、介護が必要な状態になっていくわけです。
実際、介護を必要とする原因をみると、脳血管疾患(脳卒中)の他は、高齢による衰弱、転倒・骨折、痴呆、関節疾患など、病気というよりは年をとるにつれてあらわれる「老年症候群」つまり「危険な老化現象」が5割を超えます。 「介護予防」には、中高年からの生活習慣病予防に加えて、高齢期からの「危険な老化」を予防することが必要なのです。
高齢期によくみられる老年症候群は、「年をとったせいにされる」「単なる生活上の不具合と見なされる」「本人の自覚がない」といった特徴があります。そのため、老年症候群に陥っていたとしても医療機関を受診する高齢者は少なく、また、医療機関においても老年症候群に対する一定の水準や対策がとられていないのが現状です。 老年症候群をもつ虚弱な高齢者を介護が必要となる前に発見し、個々の状態に応じた対処をすみやかに行うことが高齢者一人ひとりの自立につながります。
高齢者が、いつまでもイキイキと自分らしく生きるためには、生活習慣病の予防だけでなく、運動機能に関する悪循環をいかに断ち切るかが重要なポイントであり、日常的な運動機能の向上を目的とした筋力トレーニングが必要不可欠です。 とくに体力の衰えた虚弱な高齢者に対しては、トレーニングマシンを使った運動トレーニングが有効です。高齢者がマシンを使ってトレーニングするというと意外に思うかも知れませんが、むしろ虚弱であればあるほどマシンを使った運動トレーニングが適応となります。 また、事前に高齢者の状態を評価した上で個別のプログラムを作成し、3ヶ月後、その効果をトレーニング「開始前」と「修了後」の数値であらわすことによって身体機能の改善が客観的にわかり、高齢者の意欲やトレーニング継続につながります。バイタリティが出て活動範囲が広がると同時に、心理面でも積極性が出るなど、心身ともに元気を取り戻し、「寝たきり」や「閉じこもり」を防ぐ効果も期待できます。
「要支援1」「要支援2」などの「軽度の要介護状態にある高齢者が重度にならないこと、並びに高齢者が要介護状態に陥らないようにすること」を目的として、平成18年4月から、「新予防給付」「地域支援事業」の介護予防サービスが導入されました。 介護予防サービスにおける運動プログラムに関しては、「運動器の機能向上マニュアル」が発表され、体力の諸要素を包括的にトレーニングして身体機能の向上を図り、 ”高齢者の自己実現を目指す”ガイドラインが示されました。
運動トレーニングの目標は、身体および生理機能を向上させ、元気で生活し続ける高齢者をつくることです。 一般に、筋力は20〜30歳頃にピークとなり、以後、徐々に低下していきますが、60歳を過ぎると劇的に低下します。また、年をとるにつれて筋力だけでなく、身体の柔軟性やバランス能力も低下し、結果として転倒や骨折をしやすくなります。 しかし、さまざまな研究から、高齢であっても運動トレーニングを行うことによって筋力が増強し、同時に持久力や柔軟性、バランス能力も向上することがわかっています。実際、90歳以上の超後期高齢者でも筋力増強効果が確認されています。
・CGT概論1【目的・効果・対象者】 ・CGT概論2【包括的高齢者運動トレーニングの特徴】 ・CGT概論3【プログラム内容】 ・トレーニングルーム・マシンレイアウト ・CGT概論4【実施する施設(例)】 ・CGT トレーニングプログラムの流れ ・プログラムの期分け・各期内容 ・CGTの効果について
目的・効果・対象者
目 的
効 果
主な対象者
包括的高齢者運動トレーニングの特徴
プログラム内容
介護予防トレーニング機器
実施する施設(例)
フローチャート
期分け分類一覧
・本プログラム期間は、3ヶ月(28週間)を1単位。 ・1単位(3ヶ月)を3期に分類。
調査研究の目的・概要
包括的高齢者運動トレーニング(Comprehensive Geriatric Traning,CGT)の介護予防事業としての効果を検討するために、介護老人保健施設のデイケア利用者と一部入所者を対象に、CGTを行う「CGT群」と従来の機能トレーニングを続ける「通常群」の2群に無作為に分け3ヶ月の介入効果を調査。
対象者
歩行が可能で週2回以上トレーニングを継続できる人の中から、同意が得られ健康上問題のない65歳以上の高齢者42名(男性9名、女性33名、平均年齢82.2±6.67歳)を対象とした。 対象者を無作為に「CGT群」(20名)、「通常トレーニング群」(22名)とした。
主な調査項目
体力、日常生活活動の評価指標として以下の項目を調査。 膝伸展筋力、股屈曲筋力、開眼片足立ち時間、閉眼片足立ち時間、長座位体前屈、ファンクショナルリーチ、Timed up & go test、最大歩行速度(10m)、普通歩行速度(10m)、Barthel Index
CGTの実施概要
トレーニングは週2回、3ヶ月を1単位とし、1単位を4期に区分。 第1期:教育導入期(4回) 第2期:予備筋力トレーニング期(6回) 第3期:筋力強化期(8回) 第4期:機能的トレーニング期(8回) トレーニングには理学療法士と運動指導士があたった。
結果・考察
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CGT群は20名のうち16名がプログラムを完了。通常トレーニング群は22名のうち17名が最終評価を受けた。脱落の理由は、転居、入院などによるものであり受け入れやすいプログラムであることがわかった。
CGT群は統計学的に筋力(P<.01)、体力評価(P<.01)ともに有意な改善を認めた。一方、通常トレーニング群では体力評価の多くの項目で有意な低下(P<.01)が見られた。
Barthel Indexで評価した日常生活活動は、CGT群のみ優位な改善効果が認められた。
改善・低下項目のまとめ
「軽度の要介護状態にある高齢者が重度にならないこと、並びに高齢者が要介護状態に陥らないようにすること」を目的として、平成18年4月から、「新予防給付」「地域支援事業」の介護予防サービスが導入されました。 新予防給付は、「要支援1・2」認定者の中で、生活機能低下のために運動器の機能向上が必要と判断された人を対象とし、介護度の重度化予防を目的として、介護予防通所介護・介護予防通所リハビリテーションにて実施されます。 地域支援事業(特定高齢者施策)は、「要介護認定非該当者」の中で「特定高齢者」を対象とし、介護予防(要介護状態に陥る事を防ぐ)を目的として、自治体にて実施されます。